前回は、かなり長々とオーバーシュートについてお話しましたが、今回は、そんな長文をきちんと読み切った人に向けた続編をお話しようと思います。
需給関係をベースにしたトレードの考え方についてです。
前回も言いましたが、現在海外では需給関係をベースにしたトレードのスキルが発達しています。日本においては、ここ1年くらいでようやく日本語解説が出てきた感じで、まだ一般的には知られていないのが現状です。
で、今回このシリーズでお話するのは、海外のそれらをそのまんま解説するという主旨ではありません。だって、海外のスキルを紹介するなら、僕なんかよりもっと英語が堪能で、それ専門に勉強している様な人の方が的確ですから。
前回もお話した様に、僕自身は海外のそれを知らずに、需給関係をベースにしたトレードを10年以上に渡って構築してきました。そこに現在の海外のスキルも参考にさせてもらいながら、更に精進を続けているのが、今の僕です。
なので、今回解説する内容は、海外のスキルとは完全に丸被りとはなりません。多分に僕なりの考え方がベースとなるお話です。
で、そこに海外のスキルも加えて紹介するという形にしようかと思ってます。
前知識として、読んでおいてもらえると良いかなと思うのが、まず
1番目の記事は、もう5年以上前の記事なので、今の考え方とは若干異なる部分もあるんですが、僕が相場を斜めラインよりも水平線の世界として見ていることが、ある程度分かる内容だと思います。
で、今回もまた
「そこまで基本的なこと、言わなくても分かるって」
というところから、めちゃくちゃ噛み砕いてお話します。
表面的に知識を拾っていくのではなく、もっと根本的な考え方から1つずつ身に着けていった方が、その後の伸び方が違うと思うんで。
それじゃあ、始まり始まり~!
需給の均衡と不均衡
市場における需要と供給について
どの様な市場であっても、買い手と売り手がいるのは、当たり前の通りです。
- モノやサービスを買いたい要求や実際に買うことのできる量=需要
- モノやサービスを売りたい要求や実際に売ることにできる量=供給
としますよね。
これと同様に、金融市場においても、
- 買いたい欲求や実際に買うことのできる量=需要
- 売りたい欲求や実際に売ることのできる量=供給
として考えます。
まず、これを頭に入れておいてください。
需要と供給の関係
市場においては、需要と供給の力関係が一致したところで、価格は決まります。
100円で買いたい人の量と100円で売りたい人の量が一致していれば、市場の価格は100円となります。
しかし、需要が供給を上回ったらどうなるでしょう?
結論から言えば、価格は上昇します。
100円で買いたい人が100人いたとしても、供給する側が50個しか売ることが出来ないのであれば、値段が高くても買わなければならない羽目になります。(需給を売買量から見た視点)
また、100円で買いたい人の量と、150円でしか売りたくない人の量が同じ場合でも、値段が高くてもどうしても買いたい人が出てくれば、価格は150円の値を付けます。(需給を欲求の大きさから見た視点)
いずれにせよ、「需要>供給」であれば、価格は上昇するんですね。
それと同様の理屈で、供給が需要を上回れば(需要<供給)、価格は下落します。
市場というのは、需要と供給の力関係で価格が上昇したり下落したりし、最終的に両者の力関係が等しくなったところ(バランスのとれたところ)で価格は落ち着きます。
需給の均衡とは
さて、この需要と供給の力関係のバランスがとれている状態が続いていることを、「需要と供給の関係が均衡している」とか、「需給関係が均衡している」などと言います。
この需給の均衡した状態について、もう少し詳しく見ていきましょう。
例えば、需給が安定せずに、価格が上下に不規則かつ激しい値動きをしている商品があるとします。グラフ化(チャート化)すると、以下の様になりますよね。
しかし、需給関係が少し安定してくれば、値段の開きはあったにしても、
「大体この商品なら、〇〇円から△△円の間で買えるよね」
なんて感じで、価格と上限と下限にある程度の一定感が生まれます。
チャートにすると、こんな感じに価格は推移します。
いわゆる並行レンジですね。この状態は、先程の値動きから比べると安定しており、需給関係は均衡しつつある状態と言えます。
で、この需給関係がどんどんと均衡してくると、価格の上下幅は小さくなっていきます。
この状態を、ボラティリティの観点からいうと、
「ボラティリティが縮小している」
と言いますよね。ボラの低下は、需給の均衡化が進んでいるという解釈もできます。
さらにこの状態を、「市場は売り方と買い方との戦場」という観点から見れば、
「小競り合いが続いている」
と言えるかもしれません。売り方と買い方の力関係が均衡した状態で勢力争いが繰り返されていると解釈できるわけです。
で、この需給の力関係が完全に一致して動かなくなると、いつどこでそれを買っても価格は一律同じ値段になります。
これをチャートにすると、ロウソク足は同時線どころか一本線(ロウソク足の実体もヒゲもない、横一本の線になったもの)が並ぶことになるわけですが、
ただ、金融市場において価格が完全一致した状態が続くというのは滅多にありません。そういったケースというのは、市場は開いているのに閑散としていて、誰も売買を行っていない様な時と言って良いかもしれません。
実際の相場では、売買によって多少の値幅が生まれるのが、需給が均衡した状態なんですよ。
で、それをチャートで表示するとこんな感じになります。
赤い四角で囲った部分が、実際の相場では「均衡している」と言える状態です。緑色の丸の様に、1つの均衡状態の中にも更に違う価格帯で均衡状態を作っているケースも珍しくありません。
とは言え、均衡しているかどうかというのは、あくまで相対的な判断です。他の値動きと比較した場合に、「均衡している」と判断するものですから、同じ均衡状態でもその値幅には差があります。もちろん、その期間にも差はあります。
なので、上図で赤く囲っていない局面でも、「均衡している」と判断できるところは当然でてきます。例えば、下の図の青丸部分とか。
結局のところ、この辺の判断は裁量です。どれが均衡状態なのかの判断は、各人の習熟度にもよりますし、需給関係をどの様な形でアナタが自分のトレードに採り入れるかによっても、変わってきます。
いずれにせよ、ロウソク足の値幅(特に実体)が縮小していき、価格が値幅の中央値に集約されていくような場面では、「需給関係が均衡している」と考えることができます。そして、値幅が小さくなればなるほど、より需給関係が均衡していると考えましょう。
ちなみに、この需給が均衡した状態を、日本の相場では古くから
「保ち合い」
と言います。値動きが膠着して横ばいになった状態のことですね。
また、既に他の記事でお話していますが、この揉み合い、膠着状態をボラティリティの観点から言えば
「スクイーズ」
と言います。
さらに言えば、この保ち合いを
「クラスター」
とも呼んだりしますよね。
ただ、海外の需給関係に注目したトレードは、均衡よりも不均衡に焦点を当てたものがほとんどのため、「不均衡」に対応する英語のトレード用語はあっても、「均衡」そのものを表す英語表記のトレード用語が「equilibrium」なのか(少なくとも僕の中では)ハッキリしていません。
なので、この記事においてはこれ以降、需給が均衡している状態を、そのまんま「均衡(状態)」とするか、もしくは「保ち合い」と表記してお話します。
需給の不均衡とは
次に、需給関係が不均衡な状態というのを、まとめておきます。
需給が均衡している状態が、「需要≒供給」なのであれば、そうでない状態が不均衡な状態ということです。つまり、
- 需要>供給が続いている状態
- 需要<供給が続いている状態
- 需供の力関係が不規則に安定していない状態(「需要>供給」と「需要<供給」が不規則に繰り返されている状態)
になりますね。
既にお話しましたが、需要が供給を上回っている「需要>供給」の状態というのは、価格は上昇します。
逆に、供給が需要を上回っている「需要<供給」の状態では、価格は下降します。
至って難しい話ではありません。
で、3つ目の「需給の力関係が不規則に安定していない状態」ですが、これをチャート化したものは既にお見せしましたよね。こんな感じでした。
この状態も、テクニカル的に言えば「レンジ」と解釈します(過去記事にて説明済みです)。
が、需給関係が安定した状態のレンジではないため、過去の値動きから次の展開を想定しづらい状態ですので、同じレンジでもこちらのレンジは、トレード不可能な局面となります。
ただ、基本的に金融市場ではこの様な状況は、一時的なことがほとんどです。しばらくすると値動きの上下は安定してきて、需給関係は均衡した状態に近づいていきます。
さて、以上に見てきた様に、相場には需給が均衡した状態の局面と、不均衡の局面があります。これら需給関係の均衡・不均衡をもとに、実際のチャート図で見ると、こんな感じになります。
見ての通り、相場というのは、需給関係の均衡と不均衡を繰り返し続けているということが分かると思います。
ちなみに、需給関係の不均衡のことを英語圏のトレード界隈では、「Imbalance(インバランス)」と呼んでいる様です。アンバランスじゃないですからね、インバランスです。
ということで、この記事においても、これ以降は
- 需給の均衡=均衡・保ち合い
- 需給の不均衡=不均衡・インバランス
と表記してお話することにします。
さて、ここまでのお話で、需給の均衡・不均衡は把握してもらえたと思います。それでは、次に進んでいきましょう。
需給関係をロウソク足から読み解く
ロウソク足で見る需給関係
需給のバランスが「需要>供給」となると価格は上昇しますが、その上昇をロウソク足1本で表せば、もちろんそれは陽線となります。
逆に「需要<供給」の場合、その下落する様子をロウソク足1本で表すならば、それは陰線となります。
また、同じ陽線であっても、より実体の大きな陽線の方が、一定時間での上昇力が強いわけで、需給関係で言えば、不均衡の度合いがより強い(均衡がより大きく崩れている)と判断できます。(陰線の場合も、同様の解釈)
では、均衡状態の場合、ロウソク足1本はどうなるでしょう?
これは既にお話していますね。本来需給が均衡している場合、ロウソク足はヒゲも実体もない横1本線となりますが、現実の相場では実体もヒゲも小さなコマ足となります。
要するに、
- 需要と供給の均衡が大きく崩れれば崩れるほど、ロウソク足の実体は長くなる
- 需要と供給の関係が均衡に近づけば近づくほど、ロウソク足の実体は短くなる
ということです。
これも、至って簡単ですね。少し考えればすぐに分かることです。
では、次に進みましょう。
均衡時の複数のロウソク足の形成
では次に、均衡状態が保たれている間、ロウソク足はどの様にして複数形成されていくのかを考えてみましょう。
完全に需給は一致しなくとも、ほぼ均衡状態に入るとロウソク足は実体が小さくなるんでしたよね。
しかし、需給は完全には一致していないので、基本的には次のロウソク足で出来るだけ正確な均衡を保とうとします。つまり、1つ目のロウソク足が小さな陽線の場合、そのわずかな不均衡を解消するために、次の足ではそれをカバーするかの様な小さな陰線が生まれるんですね。
しかし、この陰線のコマ足もわずかな不均衡ですから、それを埋めるために次の足では陽線が生まれ、更にその陽線のわずかな不均衡を埋めるために次に陰線が生まれ・・・
というロウソク足の生成が繰り返されます。
もちろん、これは理屈を理解してもらうための教科書的な値動き解説図です。なので、実際のチャート上では、もう少し複雑です。
1つ目のロウソク足の不均衡を次の足だけで埋めることは出来ず、2本以上のロウソク足で不均衡を解消したりします。また、実体に比べてヒゲが長いロウソク足が続いたり、やや蛇行してロウソク足が並んでいたり・・・
とまぁ、色々なケースがあるんですね。
実際のチャートで確認してみましょう。下の図はポンドドルの日足です。
赤い四角で囲ったAとBは、先ほど解説した教科書的な均衡の保ち方です。陽線が出るとほぼ同じ値幅の陰線で不均衡を是正し、その陰線の不均衡を次の足の陽線で是正しています。
で、ここで注意してもらいたいことがあります。
それは、ロウソク足がつけたわずかな不均衡を次のロウソク足で是正する場合、必ずしも実体でそれを埋めた状態で終わる必要はないということです。例えば、前の足が陰線だった場合、次のロウソク足の値動きで上昇して一旦前の足の不均衡を埋めた後、次に下降して上ヒゲで終わってもOKです。
大切なのは、値動きが前のロウソク足の不均衡を埋めようとした形跡があるのかどうかです。
また、僕が図で解説しているものは、原理原則を理解してもらうために描いた理想的なものです。なので、現実の相場では必ずしも前の不均衡をピタリと埋めるわけではありません。完全には埋めきらないこともありますし、行き過ぎることもあります。あまり神経質にならない様にしてください。
で、この様なことを理解して見ていくと、赤く囲ったCとDも、容易に均衡状態だということが分かると思います。
次にオレンジ色で囲ったEとFを見て下さい。これは、最初のロウソク足を次の1本で是正しきれずに、複数のロウソク足で不均衡を是正して均衡を保とうとしている例です。これも容易に判断できると思います。
では次に、青色で囲ったところを見てみましょう。
これは、ロウソク足の実体だけを見ると、蛇行していたり上昇や下降をしている様に一見見えますが、ヒゲを含めたロウソク足全体で見ると、均衡状態だと分かる例です。これも、それほど難しくはありませんね。
ロウソク足の形はあくまで「一定期間における結果」でしかありません。その間の軌跡や次のロウソク足(期間)と連動してみることで、現在の値動きが均衡状態にあるのかどうかが判断できます。
次に、一番左側の緑色の四角で囲った局面を見て下さい。ロウソク足の軌跡から、この視覚の部分を1つの均衡状態と見ることが出来ますが、ロウソク足の実体を中心に見た場合は、2種類の揉み合いと見ることもできます(緑色で塗り潰した丸部分)。
ちょっとこの部分、詳しく解説しようと思ったんですが、かなり長くなるので割愛しますが、こういった細部もきちんと見ることで、実際のトレードにおいてはレンジ内取引にうまく活用できるようになります。
更にもう1点、解説しておきましょうか。
オレンジ色の四角で囲ったEとFの間にあるピンク色で塗り潰した部分を見てください。数本のロウソク足で下にじり下がりしていますよね。
しかし、このじり下がりした不均衡は、Fに入ると、次の陽線1本だけで是正されています。そしてFではこの陽線の不均衡を数本のロウソク足を使って是正しているという形になっています。
なので実際には、ピンク色の部分とFの両方を合わせて1つの均衡状態とするのが、正しい判断です。(ここでは、均衡状態を分かりやすく解説するために、敢えて分けてみただけです)
さて、ここまで解説してきて、何となく気づいた人もいると思いますが、
「プライスアクション」
というと、出来上がったロウソク足の形状だけに注目されがちです。実際、解説している側もその形状だけしか解説してませんしね。
でも、どんなに「プライスアクション」と横文字を使って格好つけたとしても、要するに「値動き」のことなんですよ。
価格がどの様に動いているのか、そのロウソク足の「軌跡」をたどることが大切なんです。丁寧にね。
とは言え、例えば上の図は日足ですから、デイトレするなら直近の数本、多くても10本程度の値動きを把握すればOKなことがほとんどです。
慣れてしまえば、ほんの数秒で済む作業ですよ。日足分析に、ほんの数秒の判断を加えるだけで、その日のトレードの分析は格段に上がります。
需給の均衡が崩れる時
さて、ここまでは均衡状態が続いている際のロウソク足の形成についてお話してきました。
今度は、均衡が続いていた需給が崩れる時のことを考えていきましょう。均衡状態が崩れるというのは、チャート上では一体どの様な時なのでしょうか?
需給が均衡している状態とは、小さなロウソク足が並んだ状態、つまり値幅の小さいレンジでした。
で、この均衡が崩れるというのは、下図の様な状態です。
そう、「レンジ・レイク」した時です。
レンジにも色々ありますが、値幅の縮小したレンジというのが、いわゆる「需給が均衡した状態」で、その均衡が崩れる時が、レンジ・ブレイクとなるわけです。
レンジ・ブレイクするパターンは、上図でお分かりの通り、主に2種類です。
- 低値を徐々に切り上げて、ブレイクする
- レンジ中の小さな値幅のロウソク足に対して、明らかに大きなロウソク足(大陽線・大陰線)が生まれて、ブレイクする
ただ、いずれにせよ実際にレンジをブレイクするのは、「たった1本のロウソク足」(上図赤い矢印)です。
まずはそのブレイクしたたった1本のロウソク足について、少し考えていきましょう。
需給の均衡状態が続いているということは、売りも買いも同程度の量で売買が繰り返されているということです。
なので、その均衡を破るだけの量の資金が流入しなければ、レンジは破られません。つまり、レンジをブレイクするきっかけとなった1本のロウソク足には、レンジをブレイクするだけの資金が詰め込まれていると解釈できます。
では、その需給の均衡が崩れるきっかけとなった証となるロウソク足を見比べてみましょう。
AとB、どちらのロウソク足が、均衡をより大きく崩したと思いますか?
簡単ですね。Aの方です。
BよりもAの方が、陽線が大きい。より大きく均衡を崩したということになります。
つまり、均衡状態にあった際のロウソク足たちに比べ、大陽線や大陰線が出現したというのは、需給関係が大きく崩れた証だということです。
ただ、ここで注意してもらいたいことがあります。
BよりもAの方が陽線が大きいということは、Aの方がより多くの買い資金が流入したのでしょうか?
いいえ、それは分かりません。だって、外為市場では株式市場の様に出来高が分からないんですから。なので、正確な買い資金の流入の量は分からないんですね。
例えば、大陽線AとBの買い注文量が同じであったとしても、Bの売り注文が多ければ、陽線は小さくなります。もっと言えば・・・
大陽線Aの買い注文量が100、Bの買い注文量がそれより大きい120であったとしても、大陽線Aの売り注文量が20しかなく、Bの売り注文量が100であったとしたら?
そう、買いと売りの比率はAの方が大きいので、Aの方がBよりもより大きく上昇しやすい、つまり大陽線を形成しやすいことになります。
要するに買い圧力と売り圧力の比率、バランスの問題です。
需要と供給の差が大きいほど、よりバランスが崩れた方が、均衡をより大きく崩したと判断することになります。
ロウソク足が大きければ大きいほど、資金の流入も大きいと思っている人は多いですが、違いますからね。ロウソク足が大きければ大きいほど、需給のバランスが大きく崩れていると解釈してください。
(資金流入の度合いを推し量る術は、無いこともありません。ただ、これを書き出したらまた長くなり過ぎたので、割愛しました)
いいですか。ロウソク足の長さというのは、資金量の大小そのものではなく、バランスの崩れ方(不均衡の度合い)を表すものであると、覚えておいてください。
市場は需給のバランスを保とうとする
先程お話した通り、需要が供給を上回り、需給のバランスが崩れると、価格は上昇します。そして、その不均衡が続く限りは、価格も上昇を続けます。
しかし、ここで知っておかなければいけないことがあります。
それは、需給関係が不均衡であっても、市場はその不均衡を手放しでは放ってはおかないということです。市場においては、需給のバランスを保とうとする力が働きます。
つまり、価格は上がっても、次には下げてくる。そうやって出来るだけ需給のバランスを保とうとするのが、市場の原理原則なんです。
- 需要が供給を上回る(需給の不均衡)と、価格は上昇する
- しかし崩れたバランスを保とうと、上がった価格は一旦下がる
- しかし、大局では不均衡は続いているため、再び価格は上がりる
- その不均衡を是正しようと、再び下がる
- 再度価格は上がり、また下がる
これを繰り返しながら、価格は上昇します。
「市場原理」というと何やら凄そうですが、そんなことはありません。
買えば価格は上がるし、売れば価格は下がります。需給が均衡状態であればまさしくその繰り返しで価格を同水準で保ちます。
しかし、「需要>供給」という状況でも、理屈は同様です。
買いたい人が売りたい人を上回っていれば、価格が上昇しますよね。
すると売りたい人たちは、価格が上がったのを見て、
「お!高く売れるぞ!今のうちに売ってしまえ!」
となって売りに出すので、一時的に供給は需要を上回って、一旦価格は下がります。
しかし、価格が下がれば、やはり買いたい人が買ってきて、価格は上昇するわけです。
しかも、需要は供給を上回っている、つまり全体的には買いの量が売りの量を上回っているわけですから、価格は売りで下がったよりも更に大きく上昇します。
で、大きく上昇したら、やっぱり売りたい人が出てくるので、価格は一旦は下がる。そして下がった価格を買いたい人は買って更に価格は上がり・・・
これを繰り返しながら、価格は上昇していくわけなんですね。
で、これが上昇トレンドです。崩れたバランスを出来るだけ修正しながら、それでも崩れたバランス全体は是正できずに上昇を続けている姿が、上昇トレンドなんですよ。
お手本の様な図にすると、こんな感じになります。
「需要>供給」という不均衡により①-②で価格は上昇したとしても、市場はバランスを保とうとし、②-③で一旦下げます。しかし、市場全体は「需要>供給」という流れなので、再び③-④で価格は上昇します。
ところが市場は均衡を保とうとし、不均衡を是正すべく④-⑤でまたまた価格は下げることになります。
しかし、やっぱり市場は全体として「需要>供給」という流れなので、⑤-⑥と価格はまたしても上昇していきます・・・
というのが、上昇トレンドの流れなんですね。
ただ、ここで1点注目してもらいたいことがあります。それは、この図にある青いラインです。
②の高値に引いたラインで⑤は止められていますね。
もちろん、これは教科書的な波の描き方です。青いラインに⑤は届かずに反転上昇をすることもありますし、青いラインを一旦下回った後に反転上昇することもあります。
しかし、敢えてお手本によって、基本的な値動きの原理を理解してもらいたいのですが、
③-④の上昇波の波は、②の高値に⑤の低値が到達することによって、帳消しにされていることに気づいてください。
①から⑥まで上昇する際、①-②-③-④-⑤-⑥という経路であっても、①-②-⑤-⑥という経路であっても、結果として上昇した値幅は同じです。つまり、①から⑥に至るまでの道のりでは、灰色で囲った②-③-④-⑤は回り道(寄り道)しただけのことでしかなく、結論だけで言えば、
「別に、灰色で囲ったコースは、無くても良かったじゃん!」
ということになるわけです。
つまりですねぇ・・・図にすると、
というのは、
というのと、結果としては同じことになるわけです。
大切なことなので、繰り返して言いますが、
③-④の波は上昇波なので、「需要>供給」という不均衡を表していますが、次の④-⑤の波で、⑤が②と同じ価格まで下落することで、③-④という不均衡の波は結果として、
②-⑤という横ばいの波、つまり均衡状態に是正されたのと同じ意味合いを持つことになるわけです。
市場というのは、不均衡が続き価格が上昇(下降)していても、この様にして出来るだけ均衡状態を作り出そうとしながら、上昇(下降)を続けているんですよ。
僕らが見慣れた、このジグザグと価格が波を描いて進んでいくという動きは、需給の不均衡とその不均衡を是正しようとする市場原理を表している動きなんですね。
ちょっと、ややこしいですかね?
でも、頑張ってついてきてください。
ロウソク足で見るトレンド時の不均衡是正の仕方
まずは基本から
では、今度は先ほどの上昇トレンドの波の図を、3本のロウソク足だけで表現してみましょう。以下の様になりますよね。
A、B、Cの3つのロウソク足が波の高値と低値を捉えています。
ただ、ちょっと見づらいんで、波を消してロウソク足だけにしてみます。するとこんな感じ。
先ほどの波と同じように、ロウソク足Aの高値(上ヒゲ)とロウソク足Cの低値(下ヒゲ)がロウソク足Bを丸々埋めきってしまっていますよね。
先程、波の形で見た考え方をこのロウソク足で当てはめるなら、
不均衡である陽線Bは、(次のロウソク足Cの低値がロウソク足Aの高値まで下げたことで)ロウソク足Aとロウソク足Cによって不均衡が是正されている
ということになります。
つまり、ロウソク足が1つ1つ形成される動きというのは、
1つ前のロウソク足の不均衡(陽線・陰線)を是正しようとしながら、新たにロウソク足が形成される
ということなんですね。
この図の次の展開として、Cの次に新たにDというロウソクが生まれたとしても、今度は陽線であるCの不均衡を是正するために、ロウソク足Dは一時的ではあっても、Bの上ヒゲの先(高値)に到達しうようとするんです。
まずは、不均衡が続いている(トレンド継続時)場合であっても、ロウソク足は1つ前のロウソク足の不均衡を是正しようとしながら形成され続ける、という基本形を覚えてください。
不均衡を埋め過ぎた場合も同じ
ところで、実際の相場では先の様にお手本的な展開とはならず、下図の様にCの低値がAの高値を越えてしまうことは、普通にあります。
しかし、これもAのヒゲとCのヒゲでBのロウソク足を埋めきってしまっているので、このパターンも「不均衡は是正された」と解釈することになります。
確率論と普遍性
ということで、この様に3本のロウソク足の内、その両側の足が、真ん中の足の実態の隙間を埋めるかのようにして形成されていくというプライスアクション・・・
このプライスアクションが、市場原理においては、基本となります。
ここでは上昇トレンドを例に解説しましたが、下降トレンド中であろうが、そしてレンジ中であろうが、同様の理屈でロウソク足は形成されていきます。
ただ、勘違いしてほしくないのですが、これはあくまで基本的な考え方です。絶対そうなるわけではありません。
トレードで勝てない人というのは、テストの回答と同じ様にたった1つの正解を求めたがります。しかし、トレードというのは現在から未来に対する差益を求める作業ですから、絶対的な1つの正解というのは存在しません。
未来に起きる事実とは不確実性の中にあるわけですから、確率で考えます。確率の高い方に向かって実行するのがトレードなんですよ。
唯一無二の正解を求めるのはただ自分自身が安心したいだけのことであって、確率思考に頭を切り替えられなければ、トレードで勝ち続けることは不可能です。
で、いつもそうですが、今回のお話もその確率論の中でお話しています。今お話しているプライスアクションも、絶対そうなるという話ではなく、大半がそうなるということです。
で、この確率ですが、一説ではおよそ8割程度と言われています。
ただ、僕自身が調べた結果では、前のロウソク足の不均衡を次の足で完全に埋めきるのは、正直8割には届きません。
また、局面によってバラツキが結構あるようで、「少ない時で6割、多い時で8割に届くかどうか・・・」という言い方が適切でしょうか。やはりトレンド時では不均衡を是正できないケースが多く、また値動きが荒い場合も是正されにくい様です。
(ただし、「完全に埋めきる」という解釈でのもとでの計算です。これについては、後ほど更に解説していきます)
では、例として、ちょっと下の図を見てもらいましょうか。次のロウソク足で不均衡を是正できなかった隙間をピンク色で塗りつぶしてみました。
上図の局面で言えば、是正しきれなかったのは3割弱で、その大半は不均衡を是正しながらロウソク足が形成されていっています。
この様にロウソク足は基本的に、前の足の不均衡(インバランス)を是正しようとしながら形成されるということを、まずは覚えておいてください。
さて、ここまでは理解できましたか?
かなり噛み砕いてお話しているので、理解できていると思います。
ではここで、もう一度先ほどの図を見てみましょう。
この図では①より前の波が描かれていませんが、仮にこれ以前の波は高値が②と同様のポイントで止められているとしましょう。つまり、②の高値で引いたラインが、レンジのレジスタンスだったら、ということです。
であれば、③-④の波でレンジ上限をブレイクし、⑤でこのラインを試してから再度上昇しているという波になりますよね。
つまり、ロールリバーサルです。
ということは、
青いラインがレンジ上限のレジスタンスだった場合、この3本のロウソク足はロールリバーサルを表していることが分かると思います。
要するに、レンジ・ブレイクという均衡を強く破った様な時であっても、市場は均衡を保とうとするんですね。
ロールリバーサルというのは、レンジ・ブレイクの判断として使われますが、実際の相場においては、実は特別な値動きというわけでもなんでもなく、ただ市場が均衡を保とうとする極日常的な値動きの中の1つにしか過ぎないんですよ。
不均衡を埋めきれない場合
さて、市場は需給の均衡を保とうとするのが原理であり、ロウソク足もそれに従って形成されていく、ということがここまでの解説で分かったと思います。
しかし、その確率は少ない時で6割程度、多い時でも8割ほどです。
当然、不均衡を是正できないこともあるわけです。図にすると、こんな感じなります。
Bの不均衡をCは是正できず、Aの高値まで下げるどころか、大して下げもせずに陽線をつけて終わっています。
ということは、このAの高値とCの低値には不均衡を是正できなかった証として、隙間ができますよね。
この埋められなかった隙間が、不均衡を是正できなかった箇所であり、ここにインバランス(不均衡)が残されていると解釈できます。
ただし、同じインバランスでも、2つの解釈ができるんですよ。
先程解説したお手本の様な画像をもう1度見てください。
これって結局、
これと同じだったわけですよね。
これ、ロウソク足に変換して考えてみてください。
このロウソク足の並びは、結局のところ、下の図と同じということになります。
Bのロウソク足は結果として、高値低値始値終値が完全に一致した一本線と同じ意味合いになります。
しかし、既にお話した通り、金融市場において完全均衡である一本線は滅多になく、実質的には値幅の小さなコマ足は、ほぼ均衡状態とみなすわけでしたね。
であれば、当然のごとく、
上図の様にわずかなインバランスが残された場合は、
上図の様に、AとCのロウソク足が完全にBを埋めきらなくとも、Bはコマ足状態と同じことになるわけですから、「ほぼ均衡状態」と考えることが出来るわけです。
補足:
上記の解説図を見て「ん?」って思った方もいると思うので、ちょっと補足しておきます。先ほど提示した2つの画像、
と、
は、正確なロウソク足図とは言い切れません。Aの終値とBの始値、Bの終値とCの始値が一致してませんからね。(株式の日足ならあり得ますが、外為市場では滅多にお目にかかれないロウソク足の並び方です)
しかし、これは解説の便宜上、「同じ意味合いになる」という理由でロウソク足を描いているため、その様になってしまっています。
これを波で解釈すると、
と同様の意味合いを持つことになるわけですから、この均衡状態の部分だけをそのままロウソク足に変換してみると、
という風に解釈できるという意味です。
「下手に手を加えると、逆に理解しづらいかな」と思い、上記の様に解説しています。
ただ、こちらの解説が理解しにくい人もいるかと思うので、違う解説の仕方を以下に加えておきます。
例えば、
この様にわずかなインバランスが残されている場合、どの様な解釈をするかというと・・・
ロウソク足1本の期間をずらして考えてみてください。
- 1本目のロウソク足の終値は上図Aが高値に到達した時点で、そこから2本目のロウソク足が始まる
- 2本目のロウソク足の終値は上図Cの低値に到達するまで続き、そこから3本目のロウソク足が始まる
この様に、ロウソク足が確定する時間をずらして考えると、
というロウソク足たちは、
という風にも解釈できるため、Bはほぼ均衡を保った状態と判断することが可能になります。
う~ん・・・どちらの解説が理解しやすいかは、人それぞれですかね。いずれにしろ混乱してしまうなら、ロウソク足ではなく、「波」で理解してください。
ということで、僕の流儀から言えば、前の足の不均衡を次の足で完全に是正できなくとも、そのインバランスがわずかであれば、「不均衡を是正した」と考えることになります。
先ほど僕は、僕自身が調べた結果では「不均衡を完全に是正しながらロウソク足が形成さるのは、少ない時で6割、多い時で8割程度」と言いましたが、この様に不完全ではあってもほぼ不均衡を是正したと考えられるものも含めると、
「市場において次の足が前の足の不均衡を是正するのは、8割程度」
となります。市場はトレンドが出ていても出ていなくとも、結果的には不均衡を8割ほど是正しながらロウソク足を形成していくわけです。
となると、残りの2割が気になるところです。つまり、
上図の様に、明らかに不均衡が是正されず、大きなインバランスを含んだ状態が、市場には2割ほど存在するわけです。
で、この埋められなかった値幅、つまり不均衡を是正できなかった値幅のことを、
「FVG(FairValue Gap)」
または、そのまんま
「インバランス(Imbalance)」
と呼びます。
現在の潮流から言うと、「FVG」と呼ばれることが圧倒的に多いです。この記事では、特に使い分けることなく、両方の呼び方を用いることにしますね。
ということで、この3本のロウソク足が織りなすFVGというプライスアクションについて、次章でもう少し解説していくとしましょう。
・・・と思って書き出してたんですが、今回の記事はここでお終いにします。さすがに長過ぎなんで。
次回は、FVGだけでなく、エントリーのタイミングをとるためのプライスアクションの見方くらいまでを解説出来たらな、と思ってます。
まぁ、需給関係をベースにしたトレードは、それだけに留まらないんですけどね。その辺りは機会があるたびに解説していこうかな、と。
それじゃあ、また。
初めまして。
インバランスについて検索していたところ、こちらの記事が目に留まり拝読させていただきました。
とても丁寧でわかりやすい説明に感動です。これからも更新を楽しみにしております!
>>saharaさん
お役に立てたようで何よりです。
更新は不定期ですが首を長くして待っていてください。
私も、Gapが、理解出来ず、悩んでました。
分かりやすい説明で、感動しました。
ありがとうございます。
>>川真田博康
お役に立てて何よりです。
非常に有益な考察ありがとうございます。
是非とも次を読ませていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
>>あんきもさん
空き時間と体調と気分に左右されますので、首を長くしてお待ちください。